実は40代頃から、気づかないうちに筋肉は少しずつ減っていきます。加齢とともに筋力が低下して「サルコペニア」になると、生活に支障をきたすようになります。筋肉が減ると何が問題になるのか、今のあなたの筋肉量・筋力は大丈夫なのか、サルコペニアのセルフチェック法をお伝えします。
この記事の監修医師
近藤千種先生
33歳で医師を志し、その後1年で医学部合格。現在は内科医として地域医療に携わる傍ら、抗加齢医学会専門医として予防医療やアンチエイジング医療の場でも活躍中。
サルコペニアとは?
加齢にともなって筋肉量が減り筋力が低下することを、専門用語で「サルコペニア」と呼びます。聞きなれない言葉ですが、ギリシャ語のサルコ=筋肉、ぺニア=喪失を組み合わせた言葉です。さて、筋力が低下するとどうなるでしょうか?
1.疲労しやすくなる
重いものが持てなくなるほか、階段を昇るのがつらくなったり、ちょっと歩いただけでも疲れたりしやすくなります。
2.活動量が低下する
身体のバランスは、筋肉がうまく協調して動くことで保たれています。そのため筋肉が減るとふらつきやすく、転倒しやすくなります。こうなると運動や外出がおっくうになってきます。
3.食欲が低下する
身体を動かさなくなると、エネルギーの消費量や基礎代謝が減って、お腹が空きにくくなります。
4.栄養不足になる
食欲が低下してあまり食べなくなると、たんぱく質などの栄養が不足して、さらに筋肉が減ります。
こうなると、もっと疲れやすくなって身体を動かさなくなる…という悪循環に陥ってしまいます。これがサルコペニアの怖いところです。
こうなると、もっと疲れやすくなって身体を動かさなくなる…という悪循環に陥ってしまいます。これがサルコペニアの怖いところです。
サルコペニアは要介護状態につながる
加齢による筋肉量・筋力の減少、すなわちサルコペニアの状態が続くと、どうなるでしょうか。
生活に支障をきたす
ふらつきや転倒の恐れがあるため、杖や歩行補助カートなどを使いながら気を付けて歩かないといけません。ちょっとした日々の買い物も行きにくくなりますし、掃除や料理などの家事もしにくくなるでしょう。
だんだんと日常生活に必要な動作がおぼつかなくなってきて、やがて生活するのに他者の手助けが必要になります。つまり、サルコペニアを放置すると要介護状態につながってしまう可能性もあります。
だんだんと日常生活に必要な動作がおぼつかなくなってきて、やがて生活するのに他者の手助けが必要になります。つまり、サルコペニアを放置すると要介護状態につながってしまう可能性もあります。
病気にかかりやすくなる
筋肉は体の動きだけでなく、内臓の働きにも関わっています。筋肉量が減ると内臓の働きが鈍りますし、体内で使えるたんぱく質も減ってしまい、免疫能が低下する要因にもなります。免疫能が低下すると、感染症などの病気にかかりやすくなったり、傷が治りにくくなったりします。
このように、筋肉量を保つことは、自立した生活や健康を守るために大切なことなのです。
このように、筋肉量を保つことは、自立した生活や健康を守るために大切なことなのです。
サルコペニアをチェックしてみよう
40代を過ぎると、知らないうちに筋肉は低下していきます。あなたの筋肉量・筋力はサルコペニアのレベルになっていないか、チェックしてみましょう。アジア人のサルコペニアは、①筋肉量の減少②握力(筋力)の低下③歩行速度の低下の3つで診断されます。
1.筋肉量の減少を確認しよう
以下の2つのどちらかに該当すると、筋肉量が低下している可能性があります。
- やせ体形である:BMI(=体重㎏÷身長m÷身長m)が18.5未満
- ふくらはぎの最も太い部分の周囲径が男性34cm未満、女性33cm未満
ふくらはぎの周囲径を巻き尺で計るほか、もっと簡単な「指輪っかテスト」で確認することもできます。
両手の親指と人差し指で指輪っかを作ります。
利き足ではない方のふくらはぎの最も太い部分を、指輪っかで囲みます。力を入れず、軽く囲むのがコツです。このとき、ふくらはぎと指輪っかの間に隙間ができる(指輪っかよりもふくらはぎの方が細い)ようだと、サルコペニアである可能性が高いです。
2.握力の低下を確認しよう
「1.筋肉量の減少」に該当する人が以下にも該当すると、サルコペニアと診断されます。
- 男性の握力:28kg未満
- 女性の握力:18kg未満
握力を測るには握力計が必要になりますが、機会があればぜひ測ってみてください。
3.歩行速度を確認しよう
「1.筋肉量の減少」に該当する人が以下にも該当すると、サルコペニアと診断されます。
- 歩行速度:1.0m/秒以下
これは、10m歩くのに10秒以上かかってしまうということです。歩くのが遅く横断歩道を渡り切るのが心配な方は、この基準に該当する可能性が高いです。
サルコペニアの可能性を知るチェックリスト
ここまでに紹介した「1.筋肉量の減少」「2.筋力の低下」「3.歩行速度の低下」は、サルコペニアと診断するための基準です。もう少し簡便にサルコペニアの可能性があるかどうかを調べられるスクリーニング方法もお伝えします。
まず、ふくらはぎの最も太い部分の周囲径が男性34cm未満、女性33cm未満であるかを確認してください。簡易的に指輪っかテストで調べてみてもいいでしょう。
それに該当する人のうち、下記のことが大変/できない人はサルコペニアの可能性があります。
まず、ふくらはぎの最も太い部分の周囲径が男性34cm未満、女性33cm未満であるかを確認してください。簡易的に指輪っかテストで調べてみてもいいでしょう。
それに該当する人のうち、下記のことが大変/できない人はサルコペニアの可能性があります。
- 4~5kgのものを持ち上げて運ぶ
- 部屋の中を歩く
- 椅子やベッドから移動する
- 階段を10段上がる
- この1年で1回以上転倒した
ふくらはぎの周囲径が今のところ問題ない人でも、一つでも当てはまるなら要注意です。
サルコペニアを予防するには
この記事で紹介したサルコペニアの診断基準やスクリーニングテストは、筋肉量・筋力の低下がかなり進んでしまっている人を洗い出すものです。これまでのチェックに引っかかっていない人も、40代以降は筋肉量が無意識のうちに減っていくので、安心せずに対策しましょう。
筋肉量を増やす方法は、筋肉量を増やすための食事を摂り、運動をすること。実はそんなに複雑なことではないのです。
筋肉量を増やす方法は、筋肉量を増やすための食事を摂り、運動をすること。実はそんなに複雑なことではないのです。
筋肉量を増やすための食事
筋肉の材料になるたんぱく質をしっかり摂りましょう。1日あたり男性は60g、女性は50gのたんぱく質を摂ることが推奨されています。たんぱく質を多く含む食品は肉、魚、卵、大豆製品です。例えば鶏肉の場合、100gあたりに含まれるたんぱく質の量は以下の通りです。
- 鶏むね肉(焼き)34.7g
- 鶏ささみ(ゆで)25.1g
- 鶏もも肉(から揚げ)24.2g
鶏むね肉にはたんぱく質のほか、中高年の疲労の軽減に役立つ成分「イミダゾールジペプチド(イミダ)」が豊富に含まれています。イミダは運動時の筋疲労を低減し、運動を続けやすくするサポートをすることもわかっています。
イミダと高齢者の筋力アップについて、詳しくは「なぜイミダは高齢者の筋力アップに良いの?【研究者に聞く】」の記事もご覧ください。
イミダと高齢者の筋力アップについて、詳しくは「なぜイミダは高齢者の筋力アップに良いの?【研究者に聞く】」の記事もご覧ください。
筋肉量を増やすための運動
筋肉は刺激を受けると増えて、強くなる性質があります。十分なたんぱく質を摂った状態で筋トレをすると筋肉量が増えます。おすすめの運動はスクワット。身体のなかでも最も筋肉が多い部分を刺激できます。家で簡単にできる筋トレ動画を実践してみてはいかがでしょうか。
▼健康寿命をのばそう スマート・ライフ・プロジェクト おうちで+10超リフレッシュ体操 超リフレッシュ筋トレ(解説篇)
https://youtu.be/jI1o1-SceDw
気を付けてほしいのは、たんぱく質などの栄養をしっかり摂らない状態で、筋トレや有酸素運動(ジョギングなど)をしすぎることです。栄養が足りないと、身体は筋肉を溶かしてエネルギー源として使ってしまいますので、逆効果になります。
▼健康寿命をのばそう スマート・ライフ・プロジェクト おうちで+10超リフレッシュ体操 超リフレッシュ筋トレ(解説篇)
https://youtu.be/jI1o1-SceDw
気を付けてほしいのは、たんぱく質などの栄養をしっかり摂らない状態で、筋トレや有酸素運動(ジョギングなど)をしすぎることです。栄養が足りないと、身体は筋肉を溶かしてエネルギー源として使ってしまいますので、逆効果になります。
継続するための工夫を
筋肉は使わないと衰えていきます。特に加齢により筋肉量が減ってしまう40代以降の方は、意識的に栄養補給と筋トレを続けることが大切です。
前述した鶏むね肉に含まれる成分イミダは、運動時の筋疲労を低減し、運動を続けやすくするサポートをします。サプリメントで摂ることもできるので、活用してみるのも一つの方法です。サルコペニアを予防し、いつまでも自立した生活が送れるようにしましょう。
前述した鶏むね肉に含まれる成分イミダは、運動時の筋疲労を低減し、運動を続けやすくするサポートをします。サプリメントで摂ることもできるので、活用してみるのも一つの方法です。サルコペニアを予防し、いつまでも自立した生活が送れるようにしましょう。
<参考資料>
・山田 実:サルコペニアとは.健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html
・山田 実:サルコペニアの診断.健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-shindan.html
・東京大学高齢社会総合研究機構:やってみようフレイルチェック
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/d15c89d17a98ba43c6fd25a9c669a638.pdf
・アクティブシニア「食と栄養」研究会:アジア人のサルコペニアの診断基準
https://activesenior-f-and-n.com/sarcopenia/case.html
・荒井秀典:総論 フレイルの全体像を学ぶ3.フレイルとサルコペニア:サルコペニア診断の変遷とAWGS 2019
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-3.html
・山田 実:サルコペニアとは.健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html
・山田 実:サルコペニアの診断.健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-shindan.html
・東京大学高齢社会総合研究機構:やってみようフレイルチェック
https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/d15c89d17a98ba43c6fd25a9c669a638.pdf
・アクティブシニア「食と栄養」研究会:アジア人のサルコペニアの診断基準
https://activesenior-f-and-n.com/sarcopenia/case.html
・荒井秀典:総論 フレイルの全体像を学ぶ3.フレイルとサルコペニア:サルコペニア診断の変遷とAWGS 2019
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-3.html