【医師談】認知症予防に最も大切なのは、自分の「得意・不得意」を知ること

#脳トレ #認知症予防 #高次脳機能

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将来、認知症にならないように、いわゆる「脳トレ」に取り組もうと考えている人は多いと思います。しかし、果たして脳トレには本当に認知症予防効果があるのでしょうか? 今回は高次脳機能のリハビリテーションの専門家で、認知機能のチェックとトレーニングができるツール『CogEvo』を開発した橋本圭司先生 (昭和大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授)にお話を伺いました。

橋本圭司 先生

橋本圭司 先生

昭和大学医学部 リハビリテーション医学講座 准教授

千葉大学予防医学センター 客員教授
医療法人社団圭仁会 理事長
一般社団法人環境保健推進協会 代表理事
医学博士

「脳トレ」には本当に認知症の予防効果があるのか?

 (3358)
編集部:
橋本先生は脳の機能に関するリハビリテーションの専門家でいらっしゃいます。いわゆる「脳トレ」の効果について、どうお考えですか?
橋本先生:
冒頭から夢を壊すようですが、注意力や記憶力を鍛える課題をやれば学習効果で短期的には良くなります。しかし、学習を止めるとまた低下します。脳トレの短期的な効果は立証されていますが、それが半年、1年、2年続くかという検証は実はあまりされていないのです。
ですから、トレーニングを一度で終わりにしない方がいいと思います。それより、自分の「得意・不得意」をしっかり認識して、それ相応の生き方をすることが大事だと思います。
編集部:
自分の得意と不得意を知ることが、脳に良いのですか?
橋本先生:
そもそも認知機能は低下したことに気づきにくいので、まずは脳トレなどを通じて、自分はどの認知機能が落ちているのかを知ることが重要です。認知機能が低下してしまった後では、いくらトレーニングをしても改善は見込めません。なるべく早い段階で、自分が不得意な機能を知り、他の機能で補う能力を身に付けることで、認知機能の低下を予防します。
編集部:
自分の不得意な能力を訓練することが、大事なのだと思っていました。例えば記憶力に自信がないなら、記憶力を高める練習をがんばるとか……。
橋本先生:
生まれつき脳の機能は、人それぞれ得意・不得意が非常にはっきりしています。例えば、パズルや積み木が苦手だけども、人とコミュニケーションを取るのが得意な人がいますよね。言葉で表現するのは苦手でも、絵や音楽で自己表現するのに長けている人もいる。10人いれば10人みんな違う、ということを理解する必要があります。
そもそも記憶力や注意力などを、きちんと測ったことはありますか?僕らは自分の認知機能は正常だと思い込んでいるけれども、元の認知機能のレベルを知らないなら、良いのか、悪いのかは分かりません。まず自分の認知機能の特性に気づくことこれが認知症予防の第一歩です。
また、野球が得意な人が野球の練習をすればもっと上達するように、その人が得意な能力のトレーニングをした方が伸びやすいんです。逆に、苦手なこと、できないことを指摘して、そのトレーニングを無理強いさせるようなやり方は間違っています。その人が持っている良い能力を伸ばすこと、脳トレポイントです。

「ありたい自分である」というイメージを持つことが大切

 (3355)
編集部:
橋本先生が専門とされている「高次脳機能リハビリテーション」とは、どのようなものでしょうか。
橋本先生:
脳機能の中で、感覚・運動・生命維持機能とは異なる、高いレベルでの認知機能(注意や記憶、感情のコントロールなど)のことを高次脳機能といいます。この高次脳機能の改善を目的とした一連の訓練が、「高次脳機能リハビリテーション」です。
医療機関や福祉施設において行う高次脳機能リハビリテーションは、高次脳機能が障害される病気(脳卒中や頭部外傷、認知症など)の患者さんに対して、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士などの専門家がマンツーマンで行う、医学的な根拠のあるリハビリテーションです。病気が診断されてから目安として半年間は集中的なリハビリテーションを受けることができますが、それ以後は自宅からご自身で続けていただくか、介護や福祉の制度を利用して続けるという形になります。
編集部:
脳卒中などの病気ではない、一般の方が自主的に行う高次脳機能リハビリテーションについては、どのようにお考えでしょうか?
橋本先生:
医学的な根拠に捉われず、個々に合った方法で、自由に行うトレーニングだと思います。多くの方は、東北大学の川島隆太先生がつくった脳トレのゲームのようなものを想像するのでしょうが、実は深呼吸ストレッチ、歩行やジョギングも脳の血液循環良くしますので、バランスの良い食事と適度な運動をすることすべて認知リハになるんです。自分の特性に合ったやり方で脳を活性化する方法を個々に考えていくことが重要です。
近年の研究で、頭を使うこと(認知課題)と運動すること(運動課題)を同時に行うこと(二重課題、デュアルタスク)が認知症予防に効果があることが明らかになってきました。例えば、歩きながらしりとりや計算をするとか、スポーツジムで自転車をこぎながら脳トレのゲームをするとか。運動と認知課題を複合的に組み合わせて楽しみながら行うこと効果的です。
編集部:
例えば記憶力の低下が心配な人では、どんな運動と認知課題を組み合わせればいいのでしょうか?
橋本先生:
認知機能は密接に関わり合っていて、記憶力や注意力など個別に分けることが難しいので、「記憶力を良くするためには、これをやればいい」と言える根拠が実はあまりないのです。ですから、本人がやりたいと思うもの、心から楽しめて持続できるものが良い認知リハになると思います。生まれつきの性質が異なるわけですから、この人には良かったからといって、あの人にも良いという保証はありません。
また、トレーニングだけやればいいというわけでもありません。
先日、地域の中高齢者を対象に認知機能を上げるためのアプリの実証試験をしました。中高齢者10人には半年間にわたり毎日アプリで訓練していただいて、他の10人には訓練なしで普通の生活を送ってもらうというものです。それで比較してみたら、実はどちらも認知機能が上がりました。
これはどうしたことだろうと考えたら、こういう試験に参加して、月1回のペースで試験関係者に会ってフィードバックをもらえるだけでも効果があるということに気づいたんです。ですから、目的意識を持って人とコミュニケーションを取る機会がある、自分のことを待っててくれる人がいるというだけでも認知機能が上がる可能性があるのかなと思います。
ただし、こういう機会はなかなか得られないですよね。ですから、脳トレのアプリでもいいし、脳に良いことが分かっている食品成分などをきっかけに、自分で意識づけをして、「こういう生活をしたい」「ありたい自分である」というイメージを持つことが大事なのではないでしょうか。

認知症の予防はいつから始めるべき?

 (3357)
編集部:
認知症予防は、いつから取り組めばいいのでしょうか。
橋本先生:
病院で認知症と診断されてから、予防対策に取り組むのでは遅すぎます。遅くとも認知症の手前の状態である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の段階で認知機能の低下に気づき、予防活動を行うことが肝要です。
次のような症状が出た場合は、MCIが疑われます。
  • いつもやっている作業なのに、以前よりも時間がかかる
  • 最近の事柄を思い出すことが困難
  • 同じ人に同じことを繰り返し言う
  • 言葉を思い出すことが難しい
  • 複雑な仕事ができなくなった
  • 集中しないと道に迷ったり、道を引き返したりする など
さらに、まだこれは仮説なのですが、おそらくMCIの前にもっと軽い認知機能の低下が存在しているはずなんです。健康な中高年1,800人ぐらいの研究によると、記憶力よりも注意力や計画力の方が年齢とともに有意な相関で機能が落ちることが分かりました。っかりミスが続いたり、段取りが悪くなってきたりしたなら、それは認知機能低下の予兆です。
  • 今日の日付がパっと出てこない
  • 会議の日時を間違えた
  • 用事をすっかり忘れた
  • 皿を割ることが多い
  • 足の指を角にぶつける
  • 人の名前が思い出せない
  • 物事に集中できない
こういった、認知機能低下のサインは若いうちから出てきます。
そういったことを自覚したのなら、自分の認知症の危険因子を見直して、そのなかの一つでも改善できないか検討していただきたいです。
認知症の危険因子
  • 低い教育歴(幼児期~10代での教育水準)
  • 難聴
  • 脳外傷
  • 高血圧
  • 大量の飲酒
  • 肥満
  • 喫煙
  • うつ
  • 社会的孤立
  • 運動不足
  • 糖尿病
  • 大気汚染
引用元:Livingston G, et al. : Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020; 396(10248): 413-446
ちなみに、この記事を読んで「自分は大丈夫かな」と心配になった人は、実は認知症になりにくい人といえます。一番まずいのは「自分は大丈夫だ」と思い込んでいる人です。素直さがなく、アドバイスを受け入れない、指摘されると怒るようなは最も認知症のリスクが高いと言えるでしょう。
編集部:
MCIになる前から、意識して生活習慣病などの認知症の危険因子をなくしていくことが大事なのですね。
橋本先生:
「生活習慣病」は、よくできた言葉だと思います。塩辛いものばかり食べたり、つい甘いものを口に放り込んだりするのは、生まれ持った性格から無意識にやっている行動が多いのです。
精神的なストレスが過食や喫煙につながったり、疲れてしまって休みの日はずっと寝転がっていたり……これらはその人の特性によって、なるべくしてなっているのです。ですから、自分の認知の特性に気づいて、検査結果が悪くなる改善を始めることがポイントです。
また、自分で自分のことは気づきにくいのですが、他人のことはよく見えるものです。この人はいつも慌てているな、ミスが多いな、いつも腹を立てているなとか、いろいろなことに気づくはずです。「人の振り見て我が振り直せ」と言いますが、を見て気づいたことを自分の特性を知るきっかけにしていただけるといいかなと思います。

5つの認知機能を知って、苦手なものをうまく補おう

 (3356)
編集部:
認知機能は主に、「見当識」「注意力」「記憶力」「計画力」「空間認識力」の5つに分類されていますが、それぞれが生活の中で担っている機能と、その能力が低下した分を補う方法を教えてください。
橋本先生:
まず、これらの認知機能は、それぞれ単独で別々に存在しているわけではありません。例えば、記憶力が悪いと言うと、記憶力そのもの単体が悪くなっていると考えがちなのですが、昨晩お酒を大量に飲んだとか夜更かしをしたなら、それだけで翌日は記憶力が落ちます。
図1の「神経心理ピラミッド」を見てください。脳や体が疲れているときは、イライラしやすくなるし、やる気も出ないから集中できない。集中できないから人が言っている情報を処理ができずに理解できない、理解できないから覚えられない。記憶力が落ちると、経験を次に活かすことができないので、段取りよく物事を計画して実行することができない……、このように密接な関わり合いがあります。
図1 New York大学Rusk研究所の神経心理ピラミッド
NewYork大学Rusk研究所の神経心理ピラミッド
引用元:橋本圭司.高次脳機能障害 どのように対応するか. PHP新書,2006.より
ですから、身体的・精神的な体力がある人は強いのです。疲れにくいし、やる気があって集中できる、集中できるから情報を理解できるし、覚えられる。以前の経験を生かして段取りよく実行できるし、物事を論理的に考えることができ、自分に何が出来て何ができてないかに気づくことができる。運動が大切だというのは、このような理由もあるのです。
さて、これを踏まえて認知リハをどう進めていくべきかという点については、やはり全ての認知機能に焦点を当てて、自分はどの機能が保たれていて、どの機能が落ちているのかを把握する。そのうえで「できる機能」「できない機能を補うという形がおすすめです(表2)。
表2 認知機能別 対策
認知機能 能力の説明 能力低下を補う方法
見当識 日付や時間、場所、周囲の状況や人物など、自分が置かれている環境を正しく認識する力 ・時計やカレンダー、スマホを見るクセをつける
・メモ帳やスケジュール表を見るクセをつける
・人に聞くクセをつける
・空の色や太陽の位置、木々の色を意識し、季節感を感じるようにする
・生活が切れないように何でも書き出すクセをつける
注意力 必要な情報に気づき、意識を集中・持続する力、複数のものに同時に注意を振り向ける力 ・新聞の文章を抜粋して、「あ」と「か」の文字だけ塗りつぶす
・最大5桁から7桁の数字を読み上げて復唱する
・指をさして声に出して確認する
記憶力 新しい情報を記銘、保持し、そして、必要な時に引き出す力 ・同じ動作を繰り返し行う
・大事なものは同じ場所に置く
・相手が言った言葉をオウム返しに繰り返す
・1日30分以上の有酸素運動
計画力
(遂行機能)
論理的に考え、計画し、問題を解決。その後推察し、行動するという一連の力 ・何でも書き出す
・作業は1つ1つ行う
・なるべく予定の変更はしない
・わからないときにはチェックリストを読み返す
空間認識力 物体の空間に占めている状態や関係を素早く正確に把握する力 ・頭を動かさずに目を動かす練習をする
・物に実際に触れてみるクセをつける
・行動を起こす前に指をさして声を出して確認する
編集部:
ではここからは、表の内容について、気になる点を質問させてください。
見当識がちょっと苦手な人は、時計やメモ帳で確認したり、人に聞いたりすることで補うと良いということですね。季節感を感じるようにする、生活が切れないようにするというのは?
橋本先生:
見当識問題があると、自分の置かれている環境が分からなくなって、生活が切れてしまうのです。例えば、インターネットで認知症について調べていたけれど、気がついたらネットショッピングしている人って大勢いますよね。これが生活の分断です。
ですから、チェックリストやto doリストなどで書き出して、生活をつなげるためのヒントを見直せるようにしておくことは有効な方法です。
また、現代はテレワークや車社会の影響で、季節感を感じる機会が減っています。空の色を見て季節の移り変わりを感じるなど、意識して季節感を持つようにすることが、見当識に良い影響を与えると思います。
編集部:
表によると注意力を補うために、5桁から7桁の数字を読み上げて復唱することが良いとされています。この理由は、なぜですか?
橋本先生:
超短期の記憶を「ワーキングメモリー」と呼びますが、これは記憶力であると同時に集中力(注意を維持する力)でもあります。昔、心理士が行った面白い研究があって、人の脳が連続で覚えられる容量は、健常人でも約7秒であることが示されました(子どもの場合は5秒)。
ですから、認知機能が低下した人に向かって7秒以上喋ったら、もう7秒前のことは忘れているわけです。そこで、7秒単位で考えるクセをつける意味で、5桁から7桁の数字を読み上げて復唱することを提案しています。ワーキングメモリーのトレーニングになるということです。
実は、暗記記憶を育てるのはとても大変なのですが、体が覚えた記憶(経験記憶)の方は伸ばしやすいんです。同じ暗記でも復唱で読み上げたときの方が記憶力は上がるんですね。ただ見て覚えるのではなく、ちゃんと声に出して読み上げるのがポイントです。
編集部:
記憶力を補うために、1日30分以上の有酸素運動が推奨されているのはなぜでしょうか?
橋本先生:
WHOの認知機能低下および認知症のリスク軽減のためのガイドラインでは​​「​​65歳以上の成人は、週あたり150分の中強度有酸素運動、週あたり75分の高強度有酸素運動、または、同等の中〜高強度の運動を組み合わせた身体活動を行うこと」と示されています。それを裏返すと、運動習慣がある人は認知症になりにくい。つまり記憶力が落ちにくいということです。私の実感としても、運動習慣を持っている人はやっぱり健康ですね。
編集部:
計画力(遂行機能)が低下すると、どのようなことが起こるのでしょうか?
橋本先生:
物事の優先順位が立てられなくて、どうしようかなと延々と迷っている優柔不断な人がいますよね。遂行機能障害の症状には、次のような特徴があります。
  • 話がぐるぐる回って何を話しているのか分からなくなってしまう
  • 予期していないことが起きるとお手上げになる
  • 自分が決めたことにこだわって間違いを修正できない など
高齢になると、こういうことが増えてきます。
これは認知症という病気でなくても、健康な人でもいますよね。実は軽度な認知機能の低下というのは、誰にでも起こるものだという理解をしていただきたいです。また、本人はそのことに気づきにくいので、周囲の人がさりげなく気づかせてあげてほしいです。
編集部:
空間認識力を補うために、行動を起こす前に指をさして声を出して確認することが推奨されるのはなぜでしょうか?
橋本先生:
これは、医療の現場でもよく使われている手法です。医療事故の多くは不注意や空間の誤認が原因で起きていることが分かっています。
例えば患者さんの取り違えを防ぐために「ID何番、何月何日生まれの○○××さんです」と言って、指をさして確認することによって見落としを減らしています。車掌さんも駅のホームで指さし確認をやっていますよね。指さし確認をすることで不注意からくる空間認知力の低下を予防し、ミスを減らしましょうという提案です。

自分の得意・不得意を知って認知機能を伸ばす『CogEvo』

CogEvoでトレーニングしている様子
編集部:
橋本先生は、科学的根拠に基づいた認知機能のチェックとトレーニングができるツール『脳体力トレーナー CogEvo』の開発に携わっておられます。これを開発した理由や工夫した点を、教えてください。
橋本先生:
高次脳機能(認知機能)は、外から見ることができません。しかし支援を行うためには、何ができて何ができないのかを「見える化」する必要があります。
そのためには、紙やペンを使った1対1の神経心理学的検査を行うことが一般的ですが、そのような専門的な検査を行うことのできる施設には限りがありますよね。結果として、認知機能の低下を把握するタイミングが遅くなってしまい、認知症の予防が間に合わなかったというケースを多く経験しました。
そこで、タブレットやパソコン、スマホなどがあれば、いつでもどこでも簡単に認知機能を測定できるように、花まる学習会 代表の高濱正伸先生と一緒に『CogEvo』を開発しました。『CogEvo』は自分の認知特性を日々簡単に把握することができるツールです。さらに、その機能をトレーニングで鍛えることができ、その効果をクラウドに記録することが可能です。新しい時代の認知症予防ツールとして、医療や福祉、介護予防の現場での活用が期待されます。
編集部:
認知機能を簡易的に調べられるような質問票がすでにあると思うのですが、それらと比較して、『CogEvo』の特徴は何でしょうか?
橋本先生:
質問票の最大の問題点は、自己申告ということです。「私は物忘れが多い」「私はミスが多い」というのは当てになりません。むしろ認知機能が良い人ほど「悪い」と答える傾向がありまして、認知機能が悪い人ほど「問題ありません」と言うのです。ですから、やはり実際に課題に取り組んでいただいて、そこでミスをして「自分はこれだけできないのか」と体験いただくことでしか気づいていただく方法がありません。
加えて、長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知症の検査は基準値がみんな同じです。よく考えてみたら30代の認知機能と40代、50代、60代、70代、80代の認知機能の基準値はそれぞれ違うはずなのですが、そこに対して対応がされていないのです。
CogEvoのいいところは、何10万のデータが蓄積され年齢ごと基準値をベースに指数を算出することです。ですから、同じ成績でも70歳だったら大丈夫だけど、30歳だったらまずいよね、というような判定ができるわけです。
また、『CogEvo』にIDを登録すると、例えば30歳、40歳、50歳で毎年1回ずつ検査したとして、元のデータが残ります。70歳になってから1回だけ検査しても、その人はもともと低かったのか、加齢とともに低下してきたのかが分からないですが、CogEvoの場合は、データがクラウドに保存されているので、認知機能の変化を客観的に見やすいという特徴があると思います。
編集部:
では、『CogEvo』はなるべく若いうちから継続的に使った方がいいのですね。
橋本先生:
認知症予防という観点であれば、40代くらいの働き盛りからお使いいただけると良いと思います。病院で認知症と診断されてからでは遅く、若いうちから自分の認知特性を把握することが大切です。その上で、自分に合った生活習慣を獲得し、認知機能の低下で生活に困らないようにすることをおすすめします。『CogEvo』は、評価やトレーニングを受ける人と評価する人の両方の負担を軽減し、脳の体力を把握できる画期的なツールであると考えています。
最近では、『CogEvo』をメールやQRコードなどでお送りして、スマホでアクセスして簡単に認知機能が測れるような仕組みをつくっています。現在、国立成育医療研究センターの母子コホート研究(※)で、1000人以上の子どもにも実施してもらって、たくさんのデータが蓄積されてきています。このテクノロジーは、子どもから高齢者まで、これからの新しい時代の認知機能の評価として使える技術になるのではないかと期待しています。
※コホート研究・・・集団を一定期間追跡して疾病の発生率などを調べる観察研究の一種
編集部:
貴重なお話と具体的なアドバイスをありがとうございました!
 (3365)

【編集部まとめ】認知症予防は自分の特性を知り、前向きに取り組もう!

橋本先生のインタビューでは、自分が不得意な/低下してしまった認知機能を何とか向上しようとするのではなく、自分が得意な/残された認知機能を伸ばすことが大切だと伺いました。
今の自分を前向きに捉えれば、やる気も出そうですね。自分に合った認知症予防に取り組むきっかけとして、認知機能への効果が認められているイミダゾールジペプチドを活用することもぜひご検討ください。