なぜイミダはスポーツにいいの?【研究者に聞く】

#イミダゾールジペプチド #筋疲労 #運動

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スポーツをする人にとって、パフォーマンスを高めてくれるスポーツサプリメントへの興味・関心は高いのではないでしょうか。イミダゾールジペプチド(カルノシン・アンセリンなどの総称;以下イミダ)はその緩衝作用と抗酸化作用によって、筋疲労の軽減や運動パフォーマンスの向上をサポートすることがわかっています。どうしてイミダはスポーツによいのか、日本ハム株式会社中央研究所の研究員に詳しくお話を聞きました。

佐藤研究員

佐藤研究員

1991年 日本ハム㈱入社 中央研究所に配属
2006年 博士(学術) イミダに関する研究で学位を取得
現在に至る

はじめに:筋疲労や筋肉痛はなぜ起こる?

運動中、足に筋肉痛を起こしている男性のイメージ図
(編集部より)
筋肉が疲労したり筋肉痛が起きたりするのは、運動すると筋肉に乳酸が溜まるから、という話を聞いたことがあるでしょうか。
実は、この説はもう古いものとなっています。このほか、
  • 乳酸が作られる過程で発生する水素イオンの影響により筋肉が少し酸性に傾く
  • 筋肉内のグリコーゲンの蓄えが少なくなる
  • エネルギー産生時に作られるリン酸が筋肉の収縮を邪魔する
ことなども原因だと言われています。また、運動すると活性酸素が増えることが分かっており、活性酸素による細胞へのダメージ(酸化ストレス)も筋疲労につながっていきます。

このように、筋疲労や筋肉痛が起きる原因・メカニズムはいくつかあることがわかってきました。イミダは筋疲労を軽減し、運動パフォーマンスを向上させると言われていますが、それは一体どういうことなのか、研究者に話を伺いました。
また本記事は、医師の眞鍋憲正先生に監修いただきました。
監修医師が特定商品への保証や購入等を推薦するものではありません。

イミダによる筋疲労軽減のエビデンスは?

編集部:
――一般的に出回っているスポーツサプリメントとイミダの違いは何でしょうか?

研究員:
一般的に販売されているスポーツサプリメントの多くは、コンディショニングを目的としたビタミン類や、筋肉量の増加を目的としたプロテイン、エネルギー補給を目的としたアミノ酸がほとんどです。

一方、イミダは筋疲労の軽減をターゲットにしたサプリメントです。なかでも研究によって科学的に検証されているものは少ないので、目新しいかと思います。ぜひこの機会に知っていただければ幸いです。

編集部:
――イミダが筋疲労を軽減することを示す証拠(エビデンス)を教えてください。

研究員:
骨格筋におけるイミダの濃度は高強度運動パフォーマンスを決定する一つの要因です。骨格筋のイミダ濃度を増加させることで、筋疲労を軽減・遅延する能力が高まると考えられます。まず、高強度の運動におけるパフォーマンスを確認した研究をご紹介します。

イミダを1回だけ飲んだときの影響

健常男性にイミダもしくはプラセボ(偽物)を1回だけ飲んでもらい、その30分後に5秒間全力ペダリングを10セット行いました。

通常はペダリングを繰り返すたびにパワーが減っていく(筋疲労が起こっていく)のですが、イミダを飲んでもらった人ではパワーの低下が抑えられ、プラセボを飲んだ人と比較してパワーが統計学的に有意に高いという結果でした。

すなわち、イミダを運動前に1回飲んだだけで筋疲労が起きにくくなったのです。
 (3602)
全力ペダリングによる無酸素性運動

イミダを継続して飲んだときの影響

また、イミダを30日間にわたり継続して飲んでもらい、摂取前後で30秒全力ペダリングテストをする研究を行いました。

このとき、筋骨格中のイミダの濃度も一緒に測ってみると、摂取前と比較して摂取後には筋骨格中のイミダ濃度は増加しており、その増加率と平均パワーには有意な正の相関がありました。

つまり、イミダを継続して摂ると、筋骨格中にイミダが蓄えられ(ローディング)、その量が多ければ多いほど運動パフォーマンスが向上したということになります。

編集部:
――イミダは短期的に強いパワーを必要とする運動において、筋肉の疲労を軽減し、パフォーマンスを向上させるのですね。持久的運動ではどうでしょうか?

イミダの継続摂取で持久力も向上

研究員:
持久的運動についても、イミダによるパフォーマンス向上が確認できています。

健常男性にイミダを30日間飲んでもらってから、自転車エルゴメーターを漕いでもらい、運動強度を少しずつ上げていき、疲労困憊するまで続けるという研究を行ったところ、イミダ摂取前と比較して摂取後では疲労困憊するまでの時間が延長し、酸素摂取量(VO2 Peak※)が高くなって持久力が上がりました
なお、偽物(プラセボ)を摂取した群では、このような効果は認められませんでした。イミダは持久力を必要とする場面でのパフォーマンスを向上させることができるのではないかと考えています。
※VO2 Peak:実施した運動における酸素摂取量の最高値で、高いほど有酸素能力が高く持久力が高いことを示します。
自転車エルゴメーターによる持久的運動

イミダはなぜ筋疲労を軽減するの?

編集部:
――イミダによる筋疲労の軽減やパフォーマンス向上のメカニズムはどのように考えられているのですか?

研究員:
大きく2つの作用(緩衝作用と抗酸化作用)によって、イミダは筋疲労の軽減やパフォーマンス向上に寄与すると考えられています。

1.イミダの緩衝作用

運動するためのエネルギーを作り出す際に乳酸が増えるのですが、特に高強度の運動をする場合は乳酸由来の水素イオンが多量に生成されます。この影響で筋肉が酸性に傾き、筋疲労を引き起こしやすくなります。

そのときにイミダがあると、酸性に傾いたpHを元に戻すように働いてくれます。このことを緩衝作用と言います。この働きによって、イミダは筋肉組織の酸・アルカリのバランスを適切に整えてくれるので筋肉が疲労しにくくなるのです。

そこで、前もってイミダを飲んでおくと、骨格筋中にイミダが蓄えられ、それが緩衝作用を発揮します。骨格筋中にイミダがたくさん蓄えられているほど、緩衝作用が高まり、疲労しにくくなるのではないかと考えられます。
緩衝作用により乳酸発生時のpH低下を防ぐ図説

2.イミダの抗酸化作用

運動をするとどうしても体内で活性酸素が多く発生してしまい、それが筋肉の細胞を傷つけ、炎症を起こして筋疲労や筋肉痛につながります。もともと体内には活性酸素を消去する酵素などが用意されていますが、それ以上に活性酸素が増えてしまうと、消去が追い付かなくなります。
イミダにはこうした活性酸素の働きを抑える抗酸化作用があります。イミダを飲んで筋中に蓄えておくと、それが抗酸化作用を発揮し、筋疲労や筋肉痛を軽減させる可能性があります。骨格筋中にイミダがたくさん蓄えられているほど、活性酸素に対する抗酸力が高まるのではないかと想定しています。
実際に、スクワット運動後にイミダを含有するドリンクを4日間飲むと、プラセボ(イミダを含有しないドリンク)を飲んだときと比較して、筋肉痛が軽くなったという研究結果が報告されています(前村ら, 環太平洋大学研究紀要 1: 83-87, 2008)。
筋中イミダが増加すると抗酸化力が向上し、炎症抑制が示唆される

筋疲労軽減のために、イミダをどう取り入れる?

編集部:
――イミダはどんなスポーツをしている人に特におすすめでしょうか?

研究員:
骨格筋中のイミダ濃度は、トレーニングや加齢によって変化し、比較的個人差が大きいことが分かっています。特定のスポーツはなく、どんなスポーツをされている方にもイミダはおすすめです。

一般的に、無酸素性運動をする人(800mランナーやスプリンター、ボート漕ぎなど)の筋肉中のイミダ濃度は、持久的運動をする人(マラソンランナー)や運動をしていない人よりも高いと言われています。

先ほど説明したように、イミダには緩衝作用があり、乳酸が発生するような場面で特に有効ですので、持久的運動よりも、無酸素性運動に向いています。ですが、マラソンでもラストスパート時は無酸素性運動になりますので、やはりイミダが効いてきます

また、運動と停止を繰り返すスポーツ(サッカー、テニスなど)にもイミダは効果的です。実際にセレッソ大阪に所属するサッカー選手にイミダを摂取してもらって、体重の7.5%の負荷をかけた自転車エルゴメーターにより、5秒間の全力ペダリングを10セット行った際、摂取前よりも合計パワーが増加したという研究や、バスケットボール選手の疲労感や運動能力を改善したという研究結果があります。

一方、持久的運動を行うマラソンランナーからは、イミダを摂取すると後半35kmで足の運びが違ってくるという意見をいただいたことがありますし、登山愛好家からも同様にイミダはご好評をいただいています。持久力を向上させる効果に加え、抗酸化作用による筋肉痛予防効果も効いているのではないかと考えております。

このようにプロ選手だけでなく、一般のスポーツ愛好家にとっても、筋肉痛を緩和して速やかに疲労を回復するのにイミダは有効だと考えます。

編集部:
――イミダはどのように摂取すればいいでしょうか。

研究員:
普段から継続的に摂取していただくと、筋肉内にイミダが蓄積(ローディング)されるのでおすすめです。

また、イミダは運動30分前に1回摂るだけでも効果があることが研究で示されています。イミダは鶏肉(特に鶏むね肉)や魚肉、豚肉などに豊富に含まれますが、運動直前にこれらを食べるのは難しいと思います。運動直前もしくは直後のイミダ補充には、サプリメントをご活用ください。

どんな人も疲れを気にせずにスポーツを楽しめるように…

編集部:
――今後、筋疲労や筋肉痛に関してイミダ研究はどのように進んでいくでしょうか?

研究員:

イミダの研究は「食肉中の健康成分を見つけたい」ということから始まりました。

イミダは、食肉中でも特に鶏の胸肉中にダントツに多く含まれています。鶏胸肉は高たんぱく・低脂肪であることから、もともとアスリートに人気の食材ですが「知らずに知らずにイミダの恩恵にあずかっているのではないか?」と思ったのです。そこからスポーツパフォーマンスに対する研究が始まりました。

多くのエビデンスが集まり、トップアスリートにもサプリメントの愛用者がいらっしゃいます。しかし一番の理想は、一般の方が疲れを気にせずスポーツを楽しめる、ということです。これからもその理想を追求して、研究に取り組んでいきます。

Profile

【監修】眞鍋憲正 先生

【監修】眞鍋憲正 先生

医師、医学博士。スポーツ医学の研究に従事しながら、整形外科、救急科を行う。専門は運動に関連した循環応答、認知機能など。現在、アメリカのInstitute for Exercise and Environment Medicineにて博士研究員として働く。医師+(いしぷらす)所属。