【イミダ研究24年間の歴史】イミダに秘められた可能性に魅せられて

#イミダとは #イミダゾールジペプチド #イミダ研究

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イミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリンなど)は、ヒトを含む動物の筋肉や脳に多く存在し、組織を安定した状態に保つ働き(抗酸化能、緩衝能)を持つと言われています。そのため、運動パフォーマンスや認知機能を向上させる効果が期待されているのです。今回は、日本ハム株式会社中央研究所で24年間にわたりイミダゾールジペプチドの研究を続けてきた研究員に話を伺いました。

佐藤研究員

佐藤研究員

1991年 日本ハム㈱入社 中央研究所に配属
2006年 博士(学術) イミダに関する研究で学位を取得
現在に至る

1998年|イミダがまだよく知られていない時代から研究をスタート

ビーカーやフラスコの画像
編集部:
イミダゾールジペプチド(以下、イミダ)に注目が集まり、研究が行われるようになったのはいつ頃でしょうか?
研究員:
イミダは、1900年に肉エキスから発見された成分です。イミダに関する研究論文は1960年代から少しずつ発表されていたのですが、1990年代ごろから論文数が急激に増え、注目が集まりました()。日本ハム株式会社は1998年から本格的にイミダ研究を開始したので、世界的に見ても早めに取り組み始めていたと言えます。
図1
イミダゾールジペプチド(カルノシン)の論文数グラフ
編集部:
イミダ研究に取り組むきっかけは、何かあったのでしょうか?
研究員:
私は1998年から昭和女子大学で研修を受けることになり、指導教官から与えられたテーマが偶然、イミダ(カルノシン)でした。イミダは鶏むね肉をはじめとした食肉・魚肉に豊富に含まれるので、日本ハムから来た研修生にちょうど良いテーマだと思われたのではないでしょうか。
当時、イミダはあまり知られていない成分で、当研究所内で誰一人としてその名前を知らず、食肉関係の研究会や学会でもほとんど取り上げられない状況でした。私自身も何のことだか、さっぱり分かりませんでした。その頃はインターネットですぐに調べられるような時代でもなかったので、まずはイミダのことを図書館で調査するところから始めました。
調べてみると、イミダの論文を出している国はヨーロッパやロシアなど、スポーツの強豪国が多かったため、運動やスポーツに良さそうな成分という印象を持ち、面白そうだと感じながら研究に取り組みました。

1998~2001年|なぜイミダが効果を発揮するのか、模索

白衣の女性研究員イメージ画像
編集部:
1998年にイミダ研究をスタートした後は、どのように進めていったのでしょうか?
研究員:
当初はイミダという成分にどのような機能性があるのか分からないため「とにかくやってみよう」というような状況でした。

基礎研究によって、運動能力向上や疲労回復に良さそうだという結果を得たので、実際にヒトでも効果を得られるか検討するための臨床試験を実施しようと考えました。しかし、当時、スポーツの共同研究をできるようなところを知らなかったこともあり、ヒトで確認するための研究の方法が全く分かりませんでした。

そこで、上司の同級生が体育学部の先生だったのでそこをスタートとして、さらにその伝手を頼って、別の大学の体育学部を訪問するということを繰り返しました。本社が大阪にあるので、訪問先の多くは関西の大学でした。

基礎研究の結果を踏まえ、ヒトにおいてもきっと良い結果が得られるのだろうと漠然と期待してはいました。私自身がそんなにスポーツになじみがなく、体育学についての知識が乏しかったために、明確に「このように効きます」と言い切れず、説得力を持って説明することができない状態でした。そんな状況下でも、相談先の先生は快く協力してくださいました。

陸上選手にイミダを摂取いただいて、運動能力の変化を調べたり、乳酸値を測定したりしましたが、これといった感触が掴めず自信が持てない時期が続きました。後から考えると、運動方法や測定条件などが適切ではなかったということだと思います。

2002年~|筑波大学と共同研究スタート。スポーツにおけるイミダの効果を明らかに

自転車競技の画像
編集部:
イミダ研究が軌道に乗り始めたのは、いつ頃のことでしょうか?
研究員:
共同研究先を探して全国を回ったわりに、最終的には中央研究所(つくば市)から一番近くにある筑波大学と出会えたことが、ブレイクスルーにつながりました。それは2002年のことです。
当時の私達は存じ上げなかったのですが、筑波大学は日本の体育研究でトップクラスの機関であり、そこにやっと辿り着いたことによって、イミダ研究で良いデータが出せるようになりました。
筑波大学と共同研究として行った最初の研究は、イミダを30日間摂取させる前と後に、自転車を30秒間漕ぐ力を測定するというものでした。全力で漕ぐので、終了時には足が震えて立てず、人によっては嘔吐するぐらいの負荷がかかります。この実験で、イミダを飲んだ後の方が、パフォーマンスが上がるという非常に良い結果を得ることができ、2003年に論文発表しています(佐藤三佳子ほか.体力科学 52, 255-264, 2003)。
筑波大学の先生は試験の評価技術がとても高く、体育学にも運動生理学にも精通していらしたので、「この成分ならこういうところに効くだろう」という適切な試験系をアドバイスしていただけたことが、良い結果につながったのだと思います。
私も一緒に教わりながら研究したことで、頭の中が一気にクリアになって、イミダが効果を発揮するメカニズムも明確に理解できるようになり「これはいける」という感覚を覚えました。そういう意味でも思い出深い研究でした。
編集部:
筑波大学との共同研究でいくつもの成果を出していらっしゃると思いますが、他にも印象深い研究がありましたらお示しください。
研究員:
当時、研究所内でテニスをする人が多く「テニスの前にイミダを飲んでおくと足が良く動く」という声をよくいただきました。
そこで、イミダをたった1回飲んだだけでも効果があるのか、筑波大学で研究したのです。先ほどお話した研究はイミダを30日間摂取していただくものでしたが、今回は1回だけ飲んでから自転車を漕いでもらいました。すると、1回飲むだけでも非常にクリアな結果が出たのです(鈴木康弘ほか.体育学研究 49 (2), 159-169, 2004)。
テニスをしている皆さんの体感と研究成果が合致し、イミダは1回飲んだだけでも効果を発揮するということを証明することができました。
このように、筑波大学と共同研究を開始してから良い結果が得られるようになってきたため、その成果を学会や研究会などで発表するようになりました。発表を聞かれた先生方から「イミダに興味があるんですけど、一緒に研究しませんか?」と誘われて、共同研究を行うことが増えていき、研究の範囲が広がっていきました。

2007年~|認知機能に関するイミダ研究を国が評価

白衣の男性研究員イメージ画像
編集部:
イミダ研究はその後、どのように広がっていったのでしょうか?
研究員:
スポーツ以外にイミダが効果を発揮できそうな分野を検討すると、もともとイミダは筋肉と脳に多い成分なので、脳の研究も世界で進んでいました。そこでイミダと認知機能の研究に着手しました。
認知機能の研究に取り組んだのは2007年からで、国立長寿医療研究センターとの共同研究という形でスタートしました。認知症が進んで認知機能が悪化している方にイミダを飲んでいただき、認知機能を改善させられることが確認できましたので、2013年に国際会議(北米神経会議)で発表しました。
その後、2014年に東京大学と九州大学と国立精神・神経医療研究センターとの共同プロジェクトを開始し、高齢者を対象とした臨床試験により記憶改善効果を確認しました(農林水産省の農業・食品産業科学技術研究推進事業「鶏肉に含まれる高機能ジペプチドを用いた中高齢者の心身健康維持に関する研究」)。この成果は農林水産研究成果10大トピックス」(2014年)にも選出されました。
編集部:
イミダ研究が、国にも評価されるようになったのですね。どのような成果が得られたのか、簡単に教えていただけますか。
研究員:
中高年の方を対象として、イミダを3か月間にわたり飲んでいる人と偽物(プラセボ)を飲んでいる人を比較した研究です(Hisatsune et al., Journal of Alzheimer’s Disease;50:149–159,2016)。イミダを飲む前と後で様々な認知機能のテストを行いました。その中でも、まず1分間くらいの話を覚えていただいて、その後30分間は別のことをやってもらった後に、さきほどの話を思い出してもらうというテストにより、イミダを飲んだ人は記憶力が良いことを証明することができました。
この研究では、国立精神・神経医療研究センターでMRI(核磁気共鳴画像法)を使って、脳の血流が改善されていることも確認できました。つまり、イミダを3か月間飲んだ人の方が脳の機能が高まっていることを示せたということです。
最初に行った国立長寿医療研究センターでの研究とは異なり、今回は認知機能が正常な方を対象にしているので、明瞭な結果が得られるかどうか分からなかったのですが、蓋を開けてみたら良い結果が出ました。MRIを使う研究を行う機会は容易に得られるわけではないので、有難い機会をいただけました。ご協力いただいた専門の先生方からは「鶏肉の成分でこんな良い結果が出るとは思わなかった」というコメントもいただいています。
この他にも、学会発表を聞いてくださった先生方の中には、イミダの認知機能に対する効果に強く興味を持ってくださった方もいらっしゃいました。ちょうど開発中の認知症新薬があまり良い結果を残せなかった時期でもあり、食品成分の力に期待する声をお寄せいただくこともありました。

2016年~|トップアスリートもイミダ研究に協力

ラグビー競技の画像
編集部:
イミダ研究が進むにつれ、興味を持ってくださる方が増えていったのですね。実際にイミダを使用した方からはどのような評価を得ているのでしょうか?
研究員:
イミダの基礎研究と並行して、開発担当者がイミダのエキスを凝縮したパウダーを用いて、トップアスリートに実際に摂取していただいてご意見を伺うという取り組みを進めています。
なかでも最も長く続けてくださっているアスリートの一人が、元ラグビー選手の福岡堅樹さんです。2016年のリオオリンピックの合宿でイミダの成分と効果を説明して「ご興味がある方はぜひ試してみてください」とお伝えしたところ、福岡さんが手を上げてくださいました。当時、福岡さんは試合中に何本もダッシュをする必要があるが、そのための持久力に課題を感じていらっしゃったそうです。
そこから足かけ6年以上になります。福岡さんがイミダを使ってトレーニングを始めてからパフォーマンスが上がり、試合の終盤でもバテずに持久力を発揮できたとご報告をいただきました。また、抗酸化作用による筋肉疲労の軽減により怪我がだいぶ少なくなったと評価をいただいています。
また、記憶力の維持に関しても、イミダが良いというデータが出ていたので、福岡さんが引退した後に医学部を受験された際にもイミダを継続して飲んでいただきました。疲労感が軽減され、頭がクリアになって集中できている、イミダのおかげで合格に結び付いたと思うと言ってくださっています。
編集部:
イミダは、文武両道のトップクラスの方に評価されているのですね。他にもアスリートでお使いの方はいらっしゃいますか?
研究員:
イミダ研究にご協力いただいているアスリートとしては、サッカー選手、野球選手、レスリング選手、陸上競技選手など、各方面でご活躍の方々にお使いいただいております。
  • セレッソ大阪の選手
  • 北海道日本ハムファイターズの選手
  • レスリングの川井梨紗子選手・川合友香子選手(東京オリンピックの金メダリスト)
  • 東洋大学の陸上競技部長距離部門の選手(箱根駅伝 常連校)

2022年|イミダにはまだ秘められたポテンシャルがある

白衣の6人の研究員イメージ画像
編集部:
これまで24年間にわたりイミダ研究を続けてきて、今どのように感じていますか?
研究員:
まさかこんなに長く取り組むことになるとは思いもよらず、気づいたらライフワークになっていました。やはり自分自身が「面白い」と感じていたからこそ続けられたと思います。スポーツでも認知機能でも、これまでかなりの確率でポジティブな結果を得ていますので、イミダにはポテンシャルがある、身体・健康のベースを押し上げてくれるような素晴らしい力を持った成分にめぐり合えたと感じています。
今後はイミダの記憶力以外の脳機能へのポテンシャルを見出すような研究をしたいと考えています。イミダは世界中で研究が進めば進むほど可能性が広がっていて、例えば新型コロナウイルスやがんに対しての効果を示した研究も発表されています。また、国内ではイミダの研究者が集まる研究会(カルノシン・アンセリン研究会)も立ち上がっていますので、他の機関の研究者たちと連携して盛り上げていきたいと思っております。
イミダ研究を24年間続けてきましたが、まだまだ他にも秘められた可能性が残されていて、大いに期待が持てる成分です。研究者としてイミダをもっと突き詰めていきたいと思います。今後のイミダ研究の発展にぜひご期待ください。
編集部:
貴重なお話をありがとうございました。これからの研究も注目しています!

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