なぜイミダは記憶力の維持に良いの?【研究者に聞く】

#イミダゾールジペプチド #疲労回復 #認知機能

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記憶力を含めた認知機能を維持するためには、神経細胞の酸化・糖化・炎症を抑えることが一つのポイントになります。イミダゾールジペプチド(カルノシン・アンセリンなどの総称;以下イミダ)は抗酸化・抗糖化・抗炎症作用を持ち、記憶力の維持に関する研究成果も出ています。イミダと記憶力維持の関係について、日本ハム株式会社中央研究所の研究員に詳しくお話を聞きました。

佐藤研究員

佐藤研究員

1991年 日本ハム㈱入社 中央研究所に配属
2006年 博士(学術) イミダに関する研究で学位を取得
現在に至る

はじめに:記憶力を含めた認知機能を維持するために

(編集部より)
記憶力は認知機能の一つであり、他にも集中力や注意力、判断力などがあります。私たちはさまざまな認知機能を組み合わせながら生活しています。

認知機能は、脳の神経細胞どうしがネットワークを作って働くことで発揮されるため、神経細胞が疲れたり壊れたりすると、認知機能が低下してしまいます。

人間はエネルギーを作り出すのに酸素や糖分を使うため、どうしても神経細胞の一部は酸化(サビつき)や糖化(コゲつき)で劣化してしまいます。通常は神経細胞がリフレッシュされますが、過剰な負荷やストレスがかかると老廃物が増え、炎症も起こります。

こうなると健康な人でも認知機能が少し下がって、もの忘れやうっかりミスが増えたり、集中しにくくなったりします。

そのため、記憶力を含めた認知機能を維持するためには、神経細胞の酸化・糖化・炎症を抑えることが一つのポイントになりそうです。この点に関して、イミダはどのように寄与できるのか、日本ハム株式会社中央研究所の研究員にお話を聞きました。


また本記事は、医師の伊藤たえ先生に監修いただきました。
監修医師が特定商品への保証や購入等を推薦するものではありません。

イミダが神経細胞に及ぼす良い影響とは?

脳のイメージ図
編集部:
――イミダを摂取すると、どのように脳まで届くのでしょうか?
研究員:
イミダの中でも人体に多く含まれる「カルノシン」は「βアラニン」と「ヒスチジン」という2つのアミノ酸がつながってできています。
カルノシンを口から摂取すると、そのままの状態で胃を通過し、小腸に到達して吸収されます。その後、カルノシンは小腸の細胞内や血液中で分解され、βアラニンとヒスチジンになります。これらが血流に乗って脳へ運ばれた後に、再びカルノシンとして合成されます。
脳内のカルノシンは抗酸化・抗糖化・抗炎症作用を発揮して、神経細胞を守るような働きをしていると考えられています。
編集部:
――イミダはなぜ抗酸化・抗糖化・抗炎症作用を発揮するのですか?
研究員:
イミダそのものの構造上、酸化や糖化を防ぐ機能があると考えられています。イミダの量が多ければ多いほど、酸化や糖化を防ぐ作用が強くなるというイメージです。
実際に、細胞を酸化・糖化・炎症が起こりやすい環境で培養し、イミダを添加すると、酸化や糖化、炎症物質(サイトカイン)の放出を抑えられるという研究結果が数多く発表されています。
他にも、イミダによって脳由来神経栄養因子(BDNF)が増えることも分かってきました。

イミダが神経細胞を元気にする物質を増やす

編集部:
――イミダでBDNFが増えるとは、どういうことでしょうか。
研究員:
BDNFは、神経細胞を活性化したり、増やしたりする働きを持つたんぱく質の一種です。イミダがBDNFを出させることで、神経細胞どうしをつなげるような働きをしたり、神経細胞を活性化したり、保護したりするのではないかと考えています。
もう少し詳しく説明すると、脳には神経細胞のほかに、グリア細胞という細胞が多く存在します。以前はグリア細胞は「神経細胞を支えるもの」くらいに考えられていましたが、近年、それ自体が重要な役割を担っていることがわかってきました。
そのグリア細胞を培養して、イミダを添加すると、グリア細胞がBDNFをより多く作ります。そのBDNFを含んだ培養液で神経細胞を育てると、他の神経とつながるための神経突起がより伸びたことが確認できました。
また、小腸の細胞にイミダを添加してもBDNFが出て、同様に神経細胞の神経突起が伸長しました。あくまで試験管内での実験ではありますが、非常に注目しています。
近年「脳腸相関」と言って、脳と腸はお互いに影響し合っていることが分かってきています。イミダは脳に入って作用を及ぼすだけでなく、腸にも作用して間接的に脳に影響を及ぼすことも期待できるのではないでしょうか。
編集部:
イミダには抗酸化・抗糖化・抗炎症作用だけでなく、脳に良い因子(BDNF)も作らせるという作用もあり、さまざまな面で神経細胞にとってプラスの働きをしてくれるのですね。

イミダの記憶力維持のエビデンスは?

論文のイメージ画像
編集部:
――では、実際にイミダを摂ると記憶力維持に良いという研究結果はありますか?
研究員:
私たちが行ったイミダによる記憶力維持の研究は大きく2つあります。

1.認知症スクリーニング検査のスコア改善

1つ目は、国立長寿医療研究センターとの共同研究で、身体・認知機能が落ちていて入院している高齢者12名を対象に行ったものです。イミダを豊富に含むチキンスープを飲んでもらったところ、血漿内にBDNFが増えて、認知症の検査法であるMMSE(ミニメンタルステート検査)のスコアも改善しました(W Maruyama, et al. NEUROSCIENCE 2012, 2012-S-4800-SfN)。
この研究で、すでに認知機能が落ちている高齢者に対してイミダが良い影響を与えたことが分かりましたので、まだ認知機能が落ちていない高齢者はどうなのか、ということを調べたのが2つ目の研究です。

2.記憶力テストのスコア維持

この研究は、東京大学、九州大学、国立精神・神経医療研究センターとの共同研究で、農林水産省の支援を受けて実施しました。認知機能に影響を与える病気や怪我のない男女39名(60~78歳)に、イミダもしくは偽物(プラセボ)のサプリメントを3か月間飲んでいただいて、記憶力の変化を確認しました。
記憶力については、前に覚えたことを後で思い出せるかのテストを行いました。イミダを摂っていない群では3か月後にスコアが下がっていたのですが、イミダを摂っている群ではスコアが低下せず、記憶力が維持されていることが示されました(Hisatsune T et al. Journal of Alzheimer‘s Disease 2016; 50: 149-159)。
イミダの摂取によって記憶力スコアの低下が改善されたイメージ図
また、サプリメント摂取の前後で脳の血流量をMRIで測定したところ、イミダを摂取した群ではそうでない群よりも、自身が体験した日々の出来事の記憶(エピソード記憶)を思い出す部位(左脳梁膨大皮質)の血流量が増していることが分かりました(Hisatsune T et al. Journal of Alzheimer‘s Disease 2016; 50: 149-159)。
MRIによる血流量測定の結果イメージ図
MRIによる血流量測定の結果(イメージ)
さらに、イミダを摂取した群では、血液中の炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン;CCL-2、IL-8、IL-5)が抑えられていました(Hisatsune T et al. Journal of Alzheimer‘s Disease 2016; 50: 149-159)。
炎症は認知機能を低下させる方向に働きますので、この面でもイミダは良い影響を及ぼしているようです。
編集部:
――認知機能が落ちている人にもそうでない人にも、イミダ摂取によって記憶力維持などの恩恵が得られるのですね。

記憶力を維持するために、イミダをどう取り入れるべき?

検討的な食事のイメージ画像
編集部:
――記憶力が気になる人がイミダを取り入れるにはどうすればいいか、アドバイスをいただけますか。
研究員:
鶏肉、特に鶏むね肉を積極的に食べるといいですよ。鶏肉は高たんぱく低脂肪で、中・高齢者に非常に良い食材である上に、イミダを豊富に含んでいます。また、イミダは魚肉(カツオ、マグロ、サケ)にも入っていますし、鶏肉よりは少ないですが、豚肉などの食肉にも含まれていますので、飽きないように組み合わせてみてください。
編集部:
――記憶力の維持に必要な量のイミダを体に取り入れるためには、鶏肉などを通常よりたくさん食べなければなりませんか?
研究員:
そんなことはありませんが、毎日続けるとなると少しきついかもしれません。日常の食生活に加えて、サプリメントから摂るのも一つの方法としてよいのではないでしょうか。イミダを摂り過ぎて問題になることは基本的にはありません。
おそらく、普通に暮らしていてもイミダが多く摂れている人と少ない人がいると思います。福岡県久山町で行われた疫学研究で、イミダの分解物であるβアラニンの血中濃度を調べていますが、やはり多い人と少ない人がいて、多い人の方が認知症のリスクが低いという研究結果も出ています。

日々の食生活でイミダを摂ることで、認知機能を維持する

編集部:
――その久山町で行われた疫学研究について、もう少し詳しく教えていただけますか。
研究員:
この研究は九州大学の先生が実施されたもので、全国平均に近い年齢・職業分布である久山町住民を対象に調査が行われました。その結果、人によってβアラニン濃度は異なっており、濃度が平均より高いグループはその後に認知症になりにくかったと報告されています(Hata J et al.,Am J Epidemiol. 2019 Sep 1;188(9):1637-1645. doi: 10.1093/aje/kwz116.Association Between Serum β-Alanine and Risk of Dementia)。
βアラニンは必要最低限の量を体内で作り出すことができますが、イミダを多く含む食品(鶏肉や魚など)を多く食べている人は、イミダが体内で分解されて、血中βアラニン濃度が高まると考えられます。
イミダを摂取することは認知機能を維持するために良いということを証明する研究の一つであると思います。
編集部:
――改めて、日々の食生活が大事であることを認識しました。
研究員:
加齢によって、体内のイミダの量は減っていきます。それを補うために、食生活の見直しやイミダのサプリメントの活用をご検討いただければ幸いです。

【これからの研究】社会で活躍するための力をより高く・より長く

編集部:
――今後、イミダと記憶力維持の研究はどのように展開される予定なのでしょうか。
研究員:
記憶力だけでなく、集中力や注意力、判断力など、認知機能の範囲を広げて研究を行っていきたいと考えています。
これらは社会で活躍するために必要な能力です。現役世代はより高いパフォーマンスが発揮でき、ご高齢の方はいつまでも輝いた人生を歩むことができるのではないでしょうか。先行研究でも今後に期待できるような成果が発表されていますので、非常に楽しみです。将来、皆様に良いご報告ができるようにがんばります。
(編集部より)
記憶力を維持するためには、認知機能を支えている脳の神経細胞が元気に働ける状態にしてあげることが大切です。5大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂取して、神経細胞がリフレッシュするための材料や環境を用意してあげましょう。

また、脳を過剰に使い過ぎないように、定期的にリラックスタイムを確保すること、十分な質と量の睡眠時間で脳を休ませてあげること、運動をして血流を良くし、精神的なストレスをためないことも重要です。このような生活習慣を意識しながら、イミダを活用してみてください。

Profile

【監修】伊藤たえ 先生

【監修】伊藤たえ 先生

医療法人社団 赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック 東京脳ドック 院長/脳神経外科、脳卒中専門医として、脳ドック、頭痛、認知症、頭部外傷、脳卒中などの診療に励む。患者様が安心でき、笑顔になれるよう丁寧な説明がモットー。