身体と心の循環を整えることで、認知症を予防する

#イミダゾールジペプチド #物忘れ #認知症

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近年、認知症の発症率を高める危険因子(難聴、うつ、喫煙、高血圧、社会的孤立、運動不足など)が分かってきました。認知症の予防には、いわゆる「脳トレ」のような頭を使う活動(知的活動)をするだけでなく、身体機能や生活習慣(食事、運動、睡眠など)にも気を配り、「身体と心の循環」を整えることが大事です。ここでは、昭和大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授の橋本圭司先生ご監修のもと、認知症の危険因子とその対処法を解説します。また、認知症予防に取り組む人を応援する機能性成分「イミダゾールジペプチド」をご紹介いたします。

橋本圭司 先生

橋本圭司 先生

昭和大学医学部 リハビリテーション医学講座 准教授

千葉大学予防医学センター 客員教授
医療法人社団圭仁会 理事長
一般社団法人環境保健推進協会 代表理事
医学博士

認知症とは

認知症は高齢者に多い病気です。日本は世界で最も高齢者の割合が高い国であり、人口の約3割が65歳以上です。2025年には認知症の人が約700万人にのぼり、高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。

4大認知症

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。認知症には原因によっていくつかの種類があり、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」が4大認知症と呼ばれています。
主な認知症の種類別割合と特徴

参考:厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~平成24年度 総合研究報告書 を基に作成

根本的な治療が困難な認知症

根本的な治療が困難な認知症として、「アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)」や「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」があります。これらは、脳の神経細胞の数が徐々に減少する病気で、根本的な治療法はありませんが、薬によって症状の進行を遅らせることは可能です。

予防や治療が可能な認知症

生活習慣の改善で予防が可能な認知症として、「血管性認知症」があります。これは脳梗塞、脳出血、くも膜下出血や細部の血管の循環障害による「脳の血管障害」から起こる病気で、高血圧、糖尿病、脂質異常症などをしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。

認知症を発症しやすくなる要因(危険因子)を知って対策を

認知症の危険因子について語る昭和大学医学部の橋本圭司先生

認知症を発症する前に対策しよう

認知症は、いきなり発症するわけではありません。まだ何の症状もない健康なときから、気づかないうちに20年ほどかけてゆっくり進行していき、多くは高齢になってから、もの忘れなどの症状が出てきます。そして認知機能が一定レベルまで下がると、認知症であると診断されます。
つまり、認知機能が正常な状態から、少しだけ低下した状態になり、やがて認知症と診断されるレベルにまで低下していく…という経過をたどります。この「少しだけ低下した状態」は、健常と認知症の境目であり、専門的には「軽度認知障害」(MCI)と呼ばれています。
MCIになった状態で何もしないと、1年間で1割ほどが認知症を発症すると言われています。つまりMCIの人が10人いたら1年で1人ほどが認知症になるということです。逆に、MCIの状態で適切な対処・予防を行えば、認知機能を回復できたり、認知症の発症を遅らせたりすることができます。
ですから、MCIの人はもちろん、健康な人も今のうちから認知症の予防をしておくことをおすすめします。

認知症を発症しやすくなる要因(危険因子)とその対策

認知症の予防に取り組むにあたり、まずは認知症を発症しやすくなる要因(危険因子)を知りましょう。有名な医学雑誌『Lancet』に掲載された論文では、現在のところ確実に認知症の危険因子と認定されるものは12あり、年代で異なるそうです[1]。
年代 認知症の危険因子 対策
45歳未満 ・少ない教育歴(中学校を卒業していない)
45~65歳 ・難聴 ・耳が聞こえづらくなったら、放置せずに補聴器を使用する
・頭部外傷 ・頭部外傷のリスクが高い場合(職業、交通事故など)は予防する
・高血圧 ・高血圧を治療し、中年期には収縮期血圧130mmHg 未満を目指す
・過度の飲酒 ・お酒を飲まない、もしくは節度のある飲酒とする
・肥満 ・運動や健康的な食生活によって、適正体重を維持する
65歳以上 ・喫煙 ・禁煙は年齢に関係なく有効であるため、禁煙外来なども活用して禁煙に取り組む
・うつ
・社会的孤立
・他者とのコミュニケーションを楽しむ、生きがいをもつ
・運動不足 ・中年期~老年期においても身体活動を維持する
・糖尿病 ・生活習慣の改善などをして、糖尿病の予防、治療に取り組む
・大気汚染

認知症の一因となる「脳の血管障害」

4大認知症のひとつである「血管性認知症」は「脳の血管障害」から起こる病気です。「血管性認知症」は4大認知症のなかでも比較的に予防が可能な認知症で、日頃から脳血流の改善を意識し、高血圧、糖尿病、脂質異常症などをしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。

脳へダメージを与える「脳細胞の老化」

脳の老化の原因は、脳神経細胞をはじめとする「脳細胞の機能が低下すること」が原因と考えられています。脳細胞がダメージを受けると脳細胞の機能が低下し、脳が老化していきます。
つまり、脳の老化を抑えるためには、「脳細胞のダメージを抑える」ことが重要なのです。

脳トレをする前に大事なこと

多くの人は「認知症予防=脳トレ」というイメージをお持ちかもしれません。もちろん脳の高度な機能を使う脳トレ(知的活動)も大事ですが、その前提として身体の状態(呼吸・脳血流などの循環、感覚機能、身体機能、栄養など)を整えることが大切です。
もし、身体が不健康な状態で脳トレをやったとしても、長続きしませんし、効果も上がりにくそうですよね。脳の健康を保つためには、身体の健康も維持することがまず必要なのです。
前述した「認知症の危険因子」には、身体の健康に関するものも複数含まれています(禁煙、難聴、運動、食事など)。やはり、身体にいいことは頭にもいいのですね。認知症予防のためには、脳だけでなく、身体の健康づくりにも注目して、両方の耐久力を上げ、調和を図ることが大事です。

脳の機能を無意識のうちに低下させる「神経疲労」

脳の疲労を感じている60代ビジネスマン
ここまで、認知症予防には脳と身体、両方の健康づくりを行い、耐久力を高めることが大事であるとお話してきました。そのためには脳トレや運動などを日々の生活のなかで続けていただきたいのですが……無理は禁物です。
というのも、私たちは過剰に運動すると、肉体的にとても疲れてしまいますよね。それは分かりやすいのですが、脳(精神)も同様に使い過ぎると疲労してしまうのです。このことを「神経疲労」(易疲労性、精神疲労)といいます。実は、この状態で脳トレを頑張ろうとしても、あまり意味がないのです。どうしてなのか、順を追って解説します。

「神経疲労」とは?

神経疲労は、肉体の疲労と違って、認識しにくいものです。神経疲労を起こしていることに気づく症状やサインには下記のようなものがあります。
・ あくび
・ 動きが遅い(スローモーション)
・ 眼前に霧がかかっているように感じる
・ 頭を使う(文章を読むなど)と疲れる など
あなたも仕事や家事などを頑張ったり、何かに没頭していたりすると、このような症状やサインを起こすことがあるのではないでしょうか? こんなときは、気づかないうちに神経疲労を起こしているかもしれません。
なお、頭部を打撲するなどして脳に損傷を負うと、神経疲労を起こしやすくなることが知られています。そのような人を検査すると、注意・集中、やる気、他者への気遣いなどを司る「前頭葉」という部分にうまく血流が届かず、酸素が足りていないことが分かりました[2]。
神経疲労は、脳に必要な酸素供給などが足りなくなって起きるようです。そんな中で無理をして脳を使い続けることは、クタクタになって動かない身体に鞭を打つようなものかもしれません。何か作業をするにしても、効率が悪いし、ミスも多くなってしまうはずです。
…というのも、神経疲労は、よりレベルの高い、高次の脳機能を支える根幹にあると考えられているからです。

神経疲労は脳の高次機能に影響を及ぼす

ニューヨーク大学医療センター・ラスク研究所が提唱した「神経心理ピラミッド」という図を示します[3][4]。これを見ると、一番下に「神経疲労」が位置付けられており、その上に集中、記憶、思考、遂行、自己の気づきといった高次レベルの脳機能が積み重なっていることがわかります。
 (1156)

図:ニューヨーク大学医療センター・ラスク研究所の神経心理ピラミッド

つまり、神経疲労が起こると、それより上の高次機能がうまく働かなくなると考えられます。特にこのピラミッドの下の方は自覚しにくい機能なので、気づかないうちに集中力が下がって効率が悪くなっていたり、やる気が出なくなっていたりするかもしれません。
肉体の疲労と同様に、神経疲労にも注意し、生活習慣を改善しながら活発に運動や知的活動を行うことが、認知症予防につながるでしょう。

イミダゾールジペプチドによる認知機能への効果

肉や魚に含まれるイミダゾールジペプチドのイメージ図
脳血流改善・脳細胞の抗炎症作用・疲労軽減機能が認められる食品成分として「イミダゾールジペプチド」があります。
イミダゾールジペプチドは、脊椎動物の骨格筋や脳内に多く含まれるジペプチド(=アミノ酸が2つ結合している物質)です。このなかには「アンセリン」や「カルノシン」といった成分が含まれます(イミダゾールジペプチドはこれらの総称です)。

イミダゾールジペプチドの機能性

イミダゾールジペプチドは、その抗酸化能(酸化;いわゆる身体のサビを防ぐ作用)や緩衝能(pH;酸⇔アルカリの調整作用)により、身体的・精神的疲労感の緩和や脳血流改善、脳細胞の抗炎症作用、認知機能の改善に働くとされています。
脳血流の改善・脳細胞の炎症抑制・疲労軽減を意識しながら認知症予防に取り組みたい方を、イミダゾールジペプチドが応援してくれるかもしれません。

身体と心の循環を整えて、認知症を予防しよう!

心身ともに健康的なシニア世代のビジネスマン
認知症予防のためには、脳のトレーニングだけではなく、心・精神や身体の健康づくり(禁煙や難聴予防など)にも注目して、さまざまな角度から整え、調和を図ることが大事です。身体の健康の改善・維持をしてこそ、認知症予防につながる身体活動や知的活動をより効果的に行えるようになります。
イミダゾールジペプチドには身体的・精神的疲労感を軽減し、記憶力を維持する機能があることが報告されています。身体と心の循環を整えて行う認知症予防の一環として、取り入れやすい機能性成分であると考えています。認知症予防に取り組みたい人はぜひ試してみてください。
<参考文献>
[1]Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 2020;396(10248):413 446.
[2]Hashimoto K, et al. Activation of the prefrontal cortex during the KWCST as measured by 2-channel near-infrared spectroscopy in patients with traumatic brain injury. Eur Neurol 2008; 59: 24-30.

[3]立神粧子. ニューヨーク大学医療センター・ラスク研究所における脳損傷者通院プログラム「脳損傷者通院プログラム」における前頭葉障害の定義(前編). 総合リハ 2006; 34 : 487-492.
[4]橋本圭司.高次脳機能障害 どのように対応するか. PHP新書,2006.