なぜイミダは身体的疲労感の軽減に良いの?【研究者に聞く】

#イミダゾールジペプチド #疲労回復

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日常生活で疲労感が気になる場合は、栄養や睡眠などの休養を取ることが一番です。そのうえで、疲労感を軽減する食品成分を活用することもできます。イミダゾールジペプチド(カルノシン・アンセリンなどの総称;以下イミダ)は、抗酸化・抗糖化・緩衝作用を持ち、身体的疲労感を軽減すると報告されています。イミダは主に動物の脳や骨格筋に多く、そのほか皮膚や心臓、肝臓、腎臓にも含まれています。イミダと身体的疲労感の軽減について、日本ハム株式会社中央研究所の研究員に詳しくお話を聞きました。

佐藤研究員

佐藤研究員

1991年 日本ハム㈱入社 中央研究所に配属
2006年 博士(学術) イミダに関する研究で学位を取得
現在に至る

はじめに:疲労感を軽減するために

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(編集部より)
「疲れたな」「だるいな」と感じることはありますか?実は日本人の約6割が日常生活の中で疲労を自覚しており、1/3以上の人が半年以上続く慢性的な疲労に悩まされているといわれています(倉垣弘彦,渡辺恭良.臨床検査学教育 2018;10:1-8)。
疲労感や倦怠感は体の不調を自覚するためのシグナルです。激しい運動や長時間の作業などをしたときや、過度のストレスを受けたときに「疲れたな」「だるいな」と感じますが、下記のようにしっかり休養すれば、疲れを取ることができます。
  • 栄養バランスの良い食事を摂る
  • ゆっくりリラックスする時間を取る
  • 軽く体を動かしてリフレッシュする
  • 質の良い睡眠を十分に取る
また、趣味やおしゃべり、外出などの気分転換も休養になります。
しかし、休養が不十分だと疲れが翌日に持ち越されてしまい、それが積み重なると慢性的な疲労を感じるようになります(杉田正明,片野秀樹.休養学基礎.p8-13,メディカ出版,2021)。
今回は栄養や睡眠などの休養を心がけるのに加えて、イミダなどの身体的疲労感を軽減する食品成分を摂り入れる意義について、研究者にお話を聞きました。
また本記事は、医師の田尻友恵先生に監修いただきました。
監修医師が特定商品への保証や購入等を推薦するものではありません。

身体的疲労感を改善する食品成分とは?

編集部:
――身体的疲労感を改善する食品成分とはどのようなものでしょうか。
研究員:
疲労感を軽減する食品(抗疲労食品)は、「健常者が身体的あるいは精神的に負荷を与えられたときにみられる作業効率の低下、ならびに休息欲求と不快感を伴った状態を軽減する食品」と定義されています。
疲れたときは作業効率(パフォーマンス)が下がり、疲れたから休みたい、しんどい・だるいという不快感が生じます。そのような状態を改善しうる成分が食品中にあるのではないか、ということで研究が進められてきました。
日々の暮らしを営む上で、疲労回復や過労予防のニーズは高いため、研究成果を社会に還元できるように、産官学連携による「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」(2003年~)が実施されました。
このプロジェクトには7つの大学と18の企業が参画し、抗疲労食品を評価するための統一された方法を用いて、23種類の食品(イミダ、コエンザイムQ10、クエン酸、フルスルチアミンなど)の抗疲労効果を調べました。その結果、イミダに抗疲労効果があることが確認されました
しかも、数ある抗疲労食品の中でも顕著に抗疲労効果を示したのがイミダであったという、我々としても驚きの結果でした。

イミダによる身体的疲労感の軽減のエビデンスは?

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編集部:
――身体的疲労感の軽減に関して、イミダ研究の成果(エビデンス)を教えてください。
研究員:
イミダには顕著な抗疲労効果があるということで注目され、多数の研究が行われています。そのうちいくつかの概要をご紹介します。

日常的に疲労感のある健常者への影響

日常的に行っている作業で疲労を自覚している方々を対象に、イミダを含む飲料を8週間継続して摂取する研究が行われました。
疲労の程度を評価するスケールを用いて、イミダを飲んでいる群と飲んでいない群とを比較すると、飲んでいた群の疲労感がより低下していた(統計学的に有意な差があった)という結果でした。イミダは日常生活で生じる疲労に対して効果があることが示されました(清水惠一郎,他.薬理と治療 2009;37:255-263)。

目と全身の疲労感、ストレス感の変化

弊社も、中高齢者を対象として、日常的に感じる身体的・精神的疲労に対するイミダの抗疲労効果を確認する研究を実施しました。
イミダの摂取により目の疲労感、全身の疲労感、ストレス感が軽減したことを示すグラフ
イミダを4週間にわたり摂取してもらい、目の疲労感、全身の疲労感、ストレス感について調査したところ、イミダ群では図1のような結果が得られました。なお、プラセボ(偽物)を摂取した群では変化は見られませんでした。

身体に負荷をかけたときの疲労感の影響

また、日常作業での疲労ではなく、あえて体に負荷をかけた場合の疲労に対するイミダの抗疲労効果を確認した研究も行われています。
イミダを含む飲料を4週間継続摂取した後、エルゴメーター※漕ぎを行うと、疲労によるパフォーマンスの低下が抑えられたことに加えて、主観的な疲労感も軽減されていることが明らかとなりました(田中雅彰,他.薬理と治療 2008;36:199-212)。
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なお、この研究では、エルゴメーター漕ぎによる酸化ストレスや炎症をイミダが抑制している可能性があることも示されています。
※エルゴメーター:負荷をかけて、運動者の体力測定やトレーニングを行う器具。

イミダはなぜ身体的疲労感を軽減する?

編集部:
――イミダがなぜ身体的疲労感の軽減作用を示すのか、現在考えられているメカニズムの概要を教えてください。
研究員:
健常者の疲労には酸化ストレスが大きくかかわっています。
何らかの作業をすると、神経や筋肉などの細胞が働きます。その際にどうしても活性酸素が発生し、細胞やその部品が酸化(いわゆる“サビつき”)します。酸化したものの交換が追い付かなくなると、細胞が活発に働きにくくなり、疲労へとつながっていきます。
先ほどご紹介した研究では、イミダが酸化ストレスや炎症を抑制している可能性が示されていました。イミダの抗疲労効果は、抗酸化作用(酸化ストレスの軽減)と、細胞機能の低下を抑制することにあると考えられています(図2)。
イミダが酸化ストレスを抑制する図説
また、イミダには抗酸化作用だけでなく、体内の酸性・アルカリ性のバランスを保つ作用(緩衝作用)、組織の糖化(いわゆる“コゲつき”)を抑える作用(抗糖化作用)、体内の代謝を行う酵素の活性を調節する作用など、さまざまな機能があり、これらが複合的に作用して抗疲労効果が発揮されているのではないかと考えています。

身体的疲労感を軽減するために、イミダをどう取り入れるべき?

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編集部:
――身体的疲労感が気になる人がイミダを取り入れるにはどうすればいいか、アドバイスをいただけますか。
研究員:
イミダは鶏肉(特に鶏むね肉)に多く含まれていますので積極的に食べると良いと思います。鶏肉は高たんぱく、低脂肪、低カロリーであり、古くから滋養強壮や健康維持に役立つ食材として重宝されてきました。
実際に、チキンスープは東南アジアや中国で滋養強壮食品として愛用されており、薬膳料理にもチキンスープを用いたメニューが多くあります。アメリカでは風邪を引いたときの食べ物としてチキンスープを飲む習慣があるそうです。イミダは煮込むとスープに溶け出しますので、イミダの活用としては非常に理にかなっていると思います。
また、イミダは魚肉(カツオ、マグロ、サケ)、豚肉などの食肉にも含まれていますので、これらも組み合わせて摂るようにしてください。
日本ハム㈱中央研究所では、イミダをたくさん摂取できるレシピを紹介しています。
もし、イミダを含む食品の摂取が足りないときはサプリメントという形で補うこともできます。基本的にイミダを摂り過ぎて問題になることはないので、特に身体的疲労感が気になる方にはサプリでも摂ってみてはいかがでしょうか。

心の健康への働きも注目されるイミダ研究

編集部:
――今後、身体的疲労感の軽減に関してイミダ研究はどのように進んでいくでしょうか?
研究員:
身体的疲労感に加えて、精神的疲労感や心の健康などへの働きも研究されており、一定の効果が報告されています。他にも「脳の老化を抑える機能」「生活習慣病を改善する効果」といった健康をサポートする機能があると報告されており、私たちも大変注目しています。

Profile

【監修】田尻友恵 先生

【監修】田尻友恵 先生

2012年に北里大学を卒業後、東京医科歯科大学や慈恵医科大学、都内総合病院、都内クリニックで皮膚科、一般内科、アレルギー科、ペインクリニック科、美容皮膚科いずれの分野でも研鑽を積む。医療に従事する傍ら、医療記事監修や化粧品の監修も多数行う。 現在は錦糸町皮膚科内科クリニックを開院し院長として活躍中。